第3変化形容詞

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第3変化形容詞

ラテン語の形容詞は、第1・第2変化形容詞と第3変化形容詞の2種類しかありません(名詞のように第4、第5変化はありません)。

形容詞としての用法は、第1・第2変化形容詞と何も違いはありません。ここで学ぶ第3変化形容詞は、そのほとんどすべてがi幹を持つ形容詞です(第3変化名詞は大半が子音幹名詞)。

i幹形容詞の3種類

(1) 見出しが1種類のタイプ
単数・主格(呼格)の形が全部の性を通じて同じです。単数・奪格は-īと-eの2種類があります。形容詞として使われる場合は-ī、名詞として使われる場合は-eとなります。

sapiens,-entis(賢明な)

男性・女性中性
単数・主格(呼格)sapienssapiens
属格sapientissapientis
与格sapientīsapientī
対格sapientemsapiens
奪格sapientī(e)sapientī(e)
複数・主格(呼格)sapientēssapientia
属格sapientiumsapientium
与格sapientibussapientibus
対格sapientēssapientia
奪格sapientibussapientibus

(2) 見出しが2種類のタイプ
辞書の見出しに単数・主格の語尾が2種類が併記されます。その際、男性・女性同形、単数・主格の語尾は-is で終わり、中性の単数・主格は-e で終わります。単数・奪格の語尾が-eでなく-īになる点が第3変化名詞との違いです。

omnis,-e (すべての)

男性・女性中性
単数・主格(呼格)omnisomne
属格omnisomnis
与格omnīomnī
対格omnemomne
奪格omnīomnī
複数・主格(呼格)omnēsomnia
属格omniumomnium
与格omnibusomnibus
対格omnīs (-ēs)omnia
奪格omnibusomnibus

(3) 見出しが3種類のタイプ
単数・主格の語尾が3種類併記されます。男性・単数・主格の語尾が -er となります。これ以外の形は、男性女性とも同じです。

ācer,-cris,-cre (鋭い)

男性女性中性
単数・主格(呼格)ācerācrisācre
属格ācrisācrisācris
与格ācrīācrīācrī
対格ācremācremācre
奪格ācrīācrīācrī
複数・主格(呼格)ācrēsācrēsācria
属格ācriumācriumācrium
与格ācribusācribusācribus
対格ācrēs (-īs)ācrēs (-īs)ācria
奪格ācribusācribusācribus

子音幹形容詞

少数派の子音幹形容詞は「見出しが1種類のタイプ」が基本です。

vetus,-eris (古い)

男性・女性中性
単数・主格(呼格)vetusvetus
属格veterisveteris
与格veterīveterī
対格veteremvetus
奪格veterevetere
複数・主格(呼格)veterēsvetera
属格veterumveterum
与格veteribusveteribus
対格veterēsvetera
奪格veteribusveteribus

Q&A

教科書(しっかり学ぶ初級ラテン語)に関して、質問があります。P.87 「第3変化形容詞」(1)<見出しが1種類のタイプ>に関して、「sapiens,-entis」の「-entis」は「見出しではない」と考えるのでしょうか(名詞の属格?と考えるのか)。見出しが2種類のタイプ「omnis,-e」、見出しが3種類のタイプ「acer.-cris,-cre」との相違が分かりません。

sapiens,-entisについて、「見出しは1種類」とみなします。
1種類とは、男性・女性・中性が同一の形ということでもあります。
2種類とは、男性と女性が同じ形、中性が別の形、ということで2種類になります。
3種類とは、男性、女性、中性それぞれが別の形をもつため、3種類になります。
2種類、3種類の場合は、見出し(=単数・主格)を載せて示すのに対し、1種類の場合、単数・主格だけを載せるなら、sapiensとだけ載せることになります。さすがにまずいだろう(=恰好が悪い)ということからか、あたかも第3変化名詞であるかのように、単数・主格と単数・属格を併記する習わしです。名詞と混同しないか?という疑問に対しては、名詞の場合、sapiens,-entis m.(賢者)、形容詞の場合、sapiens,-entis(賢い)と表記されますので、品詞の区別は明確です。

第3変化形容詞の例文

名詞的用法

Sapiens habet dīvitiās in sē.           賢者は自らの中に富を持つ。
(dīvitiae,-ārum f.pl. 富 sē: 3人称の再帰代名詞、男性・単数・奪格)

Fortēs fortūna adjuvat. 運命は強い者を助ける。

Nunc omnia rīdent. Verg.Ecl.7.55 今すべてがほほえんでいる。

Omnēs ūna manet nox.  Hor.Carm.1.28.15 一つの夜(死)がすべての人を待ち受ける。

Aequat omnēs cinis.  Sen.Ep.91.16 灰はすべての人々を同じにする。

属性的用法

Īra furor brevis est. 怒りは短い狂気である。

Gravis īra rēgum est semper. Sen.Med.494 王の怒りはいつも重い。

Omnium rērum principia parva sunt. Cic.Fin.5.58 すべての物事の始まりは小さい。

Sermō mollis frangit īram. 柔らかな言葉が怒りを打ち砕く。

Avāritia vērō senīlis quid sibi velit, nōn intellegō. Cic.Sen.66

だが、老年の貪欲が何を自分に求めるのか、私にはわからない。

Avāritia: avāritia,-ae f.(貪欲)の単数・主格。
vērō: だが
senīlis: 第3変化形容詞senīlis,-e(老年の)の女性・単数・主格。
quid: 疑問代名詞quis,quid(誰が、何が)の中性・単数・対格。
sibi: 3人称の再帰代名詞、女性・単数・与格。「自分に」。
velit: 不規則動詞volō,velle(望む)の接続法・能動態・現在、3人称単数。間接疑問文における接続法。
nōn: 「~でない」。intellegōを否定。
intellegō: intellegō,-ere(理解する)の直説法・能動態・現在、1人称単数。

<逐語訳>
だが(vērō)老年の(senīlis)貪欲が(Avāritia)何を(quid)自分に(sibi)望むのか(velit)、私は理解しない(nōn intellegō)。

述語的用法

Ars longa, vīta brevis. cf.Sen.Brev.1.1                      
技術は長く、人生は短い。

Levis est Fortuna.  運命の女神は軽薄である。

In tenuī labor, at tenuis nōn glōria. Verg.Geo.4.6 仕事は小さなことがらを対象とするが、得られる栄光は小さくない。(tenuīは名詞的用法、tenuisは述語的用法)

副詞的用法

Disce libens. 楽しく学べ。

Fugit irreparābile tempus. Verg.Geo.3.284 時間は逃げ去り二度と取り戻せない。

しっかり学ぶ初級ラテン語

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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